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古代エジプトのファラオ、ツタンカーメン(在位、紀元前1333〜1324年)の墓で見つかった短剣は隕石からつくられている。

この装飾品の武器は、1925年に英国人考古学者ハワード・カーターがこの墓を発掘したときに見つけた2つの短剣のひとつで、その金属細工の複雑さと珍しさから大きな議論を巻き起こしていた。

それは、3000年以上経過しても全く錆びていないという異常な保存状態であったからだ。

2016年、イタリア人とエジプト人の研究者から成る調査チームが、「蛍光エックス線分析装置」を用いた非侵襲的検査を実施。金属の成分を分析することに成功した。

この結果、鉄、ニッケルやコバルトなどと判明し、データベースに残っている地球外の隕石の成分と一致したことを突き止めた。

短剣は隕石を用いて作られたことを強く示唆していると結論付け、論文が世に出された。

ツタンカーメン王が埋葬された紀元前14世紀当時、鉄は金よりも貴重な金属でした。

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人類が鉄の製錬技術を習得するのは、ツタンカーメン死後100年ほど先のこと。

化学分析からはこの短剣をどうやって作ったのか、手に入れたのか、起源と鍛造方法は不明のままで手掛かりを見つけることは出来ませんでした。

しかし、2022年に千葉工業大学のチームが色んな角度で調べて最新論文を発表。

隕石であることに変わりはないのだが、ある推測が話題になった。

チームは紀元前14世紀中頃における古代エジプトの外交活動を記録した「アマルナレター」という3400年前の粘土板文書を調べることに。

その文書は、ツタンカーメンの祖父であるアメンホテプ3世がアナトリアのミタンニ地域の王の娘と結婚した際にミタンニの王から贈られた黄金の鞘に収まる鉄剣について触れていました。

ツタンカーメンの棺にあった短剣は、国外から受け取った家宝だったのかもしれません。

また元素分析は、鉄剣の柄にあった装飾物が漆喰で接着されていたとも示していました。

漆喰はミタンニではよく用いられていたものの、エジプトに定着したのは後年になってからです。

この短剣について触れられた文献にも「天から降った鉄」という記述がある。

結局どうやって作られたのか、どこで作られたのは謎のままだが、大切なものを大切な人に贈る風習というのは古今東西、同じような発想なのだろう。